蔵元からの手紙「ドメーヌ・クヘイジの 志とワイン」
スタートは日本酒の酒蔵
ドメーヌ・クヘイジは、日本の酒蔵である萬乗醸造にその出発点があります。私自身も、15年間日本酒造りを続け、その後、2013年にフランスに渡りました。
「日本酒屋が、なぜ、わざわざフランスまで来てワイン造りをするのか?」
疑問に思われるかもしれません。
しかし革新的な発見は、その分野で長らく研究している者より、他分野から参入した者が、サラっと引き起こすことが多いのです。同じ業界の中で、凝り固まったまま頭を悩ませていても、革新を生み出すことはできない。違う分野の知識、経験とのミックスが新しい考え方を生み出す。これはどんな分野、どんな事業でも同じではないでしょうか。
両者を造る意義
発酵のメカニズムは、日本酒もワインもまったく同じです。創りたい酒のゴールの姿から逆算して醸造環境を整えるのが醸造家の仕事です。酵母がアルコール発酵するという大前提に、同じような思想で醸造環境を用意すれば 呈味はちがえど、ワインも日本酒も同じようなスタイルに仕上がります
こういうワインにしたいから、樽熟成はこう、樽入れ前、発酵終了時のワインはこうなっていたいから こういう温度経過をとろう、そのために仕込みはこうしようと、逆算しながら醸造環境を考えるわけですが ワインも日本酒も、そこで表現したいテーマが一緒なら、必然的に醸造環境も似てきます そのため発酵形態も共通していき、結果同じテーマを表現できます
いかに自分たちのテーマを表現するかという表現力 醸造環境を整えるというプロデュース力は、ワインと日本酒両者を造ることでより立体化していると思います
また、日本酒とワインを超えてそのスタイル、造り方は共通しているのですが それでも当然違いが出てきます、それこそが品種の個性、テロワールの個性です。kuheijiという同じ人格が同じ思想でつくる その上でなお現れる違いという個性 だからこそ我々は品種の個性、テロワールの個性という物がより鮮明に表現できると思います
ブルゴーニュのテロワール、畑の差がブドウの違いを生み、ワインの個性が生まれるという考えは田んぼ、米でも同じことです。より個別の田んぼにフォーカスし、自分たちで栽培した米で日本酒のテロワールを表現できれば、例えばコース料理を食べる時に、日本酒、白ワイン、赤ワインと流れることにより、kuheijiの哲学とコンセプトが根底に流れるマリアージュを提案できると自負しています
毎年起きる畑と田んぼのドラマと共に汗を掻き、太陽の尊さを知り、ワインと日本酒造り両方のノウハウを自由に交換する。その垣根のないミックスによって生まれる物を、醸造家の革新と呼び、哲学に影響を与えて進化を図れるのではないかと思い至ります。
日本酒だけの一方的なアピールでは足らないのです。ワインを醸造家として知って初めて21世紀の醸造家と呼んで頂けると思うのです。
二つの文化の相互理解は、一代ではなし得ない仕事かもしれませんが、ひと時だけに終わらない挑戦だからこそ、それぞれの彼の地で歩み続ける意味を持つのです。
醸造家としての仕事
何の伝手もない、ゼロから始めたブルゴーニュでのワイン造りです。既存のワイナリーを買収するなどした方が時間の短縮にはなるとは思います しかしゼロから始めたことにより、得たものはより大きかったと思います 1から設計し、経験し、修正する事を繰り返したことで 自分たちの理想へは、遠回りようで、実は最短距離を進めていると思います
日本酒もワインも、その香り、味わいは大切ですが それ以上に食事に、場に寄り添い、人と人をつなぐことに本当の価値があります 人と語り、飲む喜びを与えるために、アルコール飲料はエモーショナルなものである必要があります
それを香りや味で表現するのか、それとも それ以外か 日本酒とワインという境界を越えた人間としては、だからこそ加えられる先見性というスパイスで飲み手の情緒を刺激できればと思います いずれにせよ、つなぐという仕事はある意味社会的インフラでもありますよりエモーショナルで、より刺激的な場をつくり出す酒を生み出すのが 日本酒やワインというカテゴリーを超えた、醸造家としての使命だと思います
ドメーヌ・クヘイジの栽培方針
現在ドメーヌ・クヘイジの畑は、モレ・サン・ドニ周辺で、2.5haを保有しています。
AC Bourgogne, Aligoté などで、石灰岩と粘土の混ざった土壌になります。格付けは決して高くはありませんが、収穫量はグラン・クリュ並みの30hl/haに抑えています。樹齢40年以上の、いわゆるヴィエイユ・ヴィーニュと呼ばれる古樹の区画も多く、凝縮したブドウがとれます。また収穫量を望まず、肥料も最低限に抑えているため、酸度が高い健全なブドウとなり、ひいては醸造環境も健全となるため、醸造中はテクニカルな人的施しの必要はありません。だから果実味を損なうことがないのです
ドメーヌ・クヘイジが目指すワイン
「優しさ、エレガンス、先見性を持つワイン」
― 優しさ ―
ブルゴーニュで栽培されている、ピノ・ノワールとシャルドネは、柔らかく、透明感のある果実味を持ちます。このセパージュの個性を損なうことなく引き出すことで、優しさを持つワインとなり、同時にこれはブルゴーニュワインの条件の一つです。
― エレガンス ―
ブドウ栽培は土と汗にまみれた仕事ですが、哲学を持ってその仕事を積み重ねていけば、不思議とその結晶であるワインにはエレガンスが宿ります。逆に言えば、どんなエレガンスなものにも、一目では気づきませんが、必ず泥と汗にまみれた積み重ねの歴史が背後にあるものだと思います。
ピノ・ノワールとシャルドネは、強い個性がある品種ではありません。しかし必要なものは兼ね備え、余計な華美をそぎ落とした謙虚さがあります。謙虚さは すなわちエレガンスです。
― 先見性 ―
ワインで新たな体験をしたとき、人はそのワインに感動するものだと思います。ワインは伝統的な飲み物ですが、グラスの中に新しい息吹を感じたとき、人は未来を連想し感動するのではないでしょうか。ワイン造りは、今 目の前にあるブドウと向き合う仕事ですが、そんな中でも先見性を忘れることなく、飲んで頂く方に新しい体験をして頂けることを目指しています。
我々の醸造は、記憶を残す作業
その年がどんな気候だったのか その年どんな仕事を積み重ねてきたのか。そして、その畑が持つテロワールという大地の記憶。これらの記憶を ワインとして留めるのが醸造だと考えています。そのため、醸造には余計な人の手を加えません 勝手に記憶を塗り替えたり、記憶を飾り立てたりしないためです
発酵というドラマ
発酵は、目に見えない小さな微生物が行うドラマです。
主役は彼らですが、その舞台は人間が演出してやる必要があります。私はブドウに付着している自然酵母を使うので、彼らはその年、その時々の気候、環境というオーディションを勝ち抜いてきた役者というところでしょうか。
原料のポテンシャルの影響は大きく、小手先の操作でそれを超えることは難しいです。しかし醸造スタイルによって、同じ原料でも、出来上がってくるワインには違いが出ます。どんなワインにしたいか、その最終形をイメージし、そこから逆算して醸造のやり方を決め、可能な限り、それが常に安定して行えるように全体を設計、管理するのが醸造家の仕事です。
人間の背丈くらいのタンクに、ブドウを優しく仕込むというところに帰結します。
人間の背丈くらいのタンクというのは、昔の農家が木桶に仕込んでいたのと同じようなサイズで、具体的に言えば5樽分、ブドウ1600kgくらいが仕込めるサイズです。小規模なドメーヌが多いブルゴーニュでも、かなり少量の仕込みになります。多すぎてもだめ、
少なすぎてもだめ、この量が自分の目指すワインにはちょうどいいと考えています。
ブルゴーニュのワイン造りでは、アルコール発酵前にマセラシオン(醸し)という、浸漬、抽出期間があり、その後アルコール発酵へと続きます。どの時点でも、酵素を媒介として連続で化学反応が起き続ける状態が発酵であり、添加物を加えず、人為的にそこに介入する方法は基本的に温度コントロールしかありません。温度帯によってそれぞれの酵素活性が変化するためです。
私が思い描くワインの完成形は、果実味豊かで、柔らかで、エレガントなスタイルを目指しているため、比較的低い温度でゆっくりと発酵させる必要があります。ピノ・ノワール
やシャルドネは、品のいい香りを持ちますが、決して強いわけではありません。このブドウ本来の香りを消さないようにしたいため、低温で緩やかに人的な施しは、ほとんど行わない状態で発酵させたいのです。
アルコール発酵は最高温度27度ほど、気温の高い年でも30℃を超えることはありません。緩やかに発酵し、酵母がゆっくりゆっくり栄養(糖分)を食べていくイメージです。大量に仕込んでしまうと、この温度経過、発酵期間をとるには、冷凍機を用いて冷やす必要があります。しかし、それでも一度火がついた発酵を抑えることはできません。大量に仕込むと、どうしても酵母が栄養(糖分)を食べている期間は短くなります。
それを、5樽程の量で仕込むと、わざわざ温度コントロールせずとも、自分の思い描いた温度経過をたどっていきます。その年ごとの気温により、多少の加温、冷却の手助けはしますが、
その年ごとのブドウのポテンシャルにあわせて、ふさわしい経過をたどってくれます。ブドウが自分自身で理想的な姿になっていくようにすら感じます。
タンクに仕込む際は、極力ブドウを潰さないよう、優しく仕込みます。全房と呼びますが、梗からブドウをはずさず、まさにそのままブドウの形でも入れますし、梗から粒をはずす場合でも、ジュースが出ないよう優しく行います。タンクの中に、ブドウの粒を積み上げていくイメージです。そのまま一週間ほど置き、その後徐々に潰してジュースを出していきます。
良いブドウを蔵に入れる、しっかり選別する、そして優しく小さいタンクに入れてやることにつきます。あとは自動的に私の目指すスタイルに仕上がっていきます。
こう書いてしまうと、ほとんど何もしていないように見えるかと思います。もちろん、年ごと、ブドウごとに違いもありますし、実際各工程で逐次分析し、細かに人の手を入れていますが、まさにできるだけ何もしないまま、極力人の手を加えないままワインになるようにしたいのです。ピノ・ノワール、シャルドネは、先ほども述べたように、控え目で謙虚であるため、人の手が入れば入るほど、その個性が失われるためです。
これはとても簡単なことのように聞こえるかもしれません。しかし、すべてのブドウにおいてこれができる蔵という環境を整えるのはとても大変なことですし、実際にあらゆる障壁があります。蔵というのは器ですが、どんな蔵でも、ある意味、そこに入れてしまえば、自動的にその蔵味がするワインになっていきます。その蔵の設計思想を超えることはできないためです。
蔵というのはまさに舞台で、そこでオーディションを勝ち上がってきた微生物という俳優たちが演じてくれます。
そしてどんな俳優が来ても、自分の思う通りに演じてくれるよう、舞台を整えておくのが醸造家の仕事であります。どんな良きブドウでも、どんな良き酵母でも、その個性を発揮できないような、残念な舞台を用意してはいけません。
2017産ワイン テイスティングコメント
アリゴテ2017
自社のアリゴテの畑は酸が残りやすいため、酸を残しつつブドウの成熟を十分に待って収穫。グラスに注ぐと柑橘のアロマに、ミネラルを感じさせる鉱物的なニュアンスが漂います。口中いっぱいに、レモンやグレープフルーツの果実味と酸味が広がり、爽やかな味わいで、まさにアリゴテらしく夏に飲むのにふさわしい味わいです また一部 新樽を使用しているため、果実だけでない、品と余韻も持ち合わせます。
コトー・ブルギニョン2017
イチゴやラズベリーなど、つみ立ての赤い果実を口に詰め込んで頬張ったときのような果実味。香りもイチゴやチェリーのようなフレッシュな赤系果実のフルーティーなアロマで、程よいタンニンの渋みと酸味でバランスの取れた味わいになっています
ブルゴーニュ・ルージュ2017
ピノ・ノワールは赤くあるべき。それは造り手としての一つの指針ですが、それを体現した自社畑からのピノ・ノワールになります。ゆっくりと成熟しつつも酸が残りやすい区画のため、焦らず、バランスを見極めながら収穫でき、2017年は糖度と酸、両者申し分ないブドウとなりました。
レッドチェリーや黒スグリを思わせる果実の香り。熟したベリー系の果実味に蜜を思わせる凝縮感、酸ときめ細やかなタンニンが 繊細でエレガントにまとまっています。
ジュブレ・シャンベルタン2017
このキュベはネゴースですが、我々はネゴースものも必ずブドウで蔵に入れ、自分たちで醸造、熟成、瓶詰めして送り出します。決して、他者のワインを購入するようなことはありません。
ジュブレ・シャンベルタンの村の背後に位置する谷、コンブ・ラボ―。谷に沿い冷涼な風が吹き流れ、標高が高めなこの谷筋の入り口の区画からのブドウで醸されており、そのクリマがよく現れています。ラズベリーやブラックベリーの果実の凝縮したアロマに、シナモンやスミレなどのニュアンスが重なります。口に含むと、まず感じるのはきめ細かなタンニン。レッドチェリーやクランベリーなどの果実味と、滑らかなテクスチャーが広がります。タンニン 酸味、ミネラルのバランスがとれ、果実味が際立つスタイルです
解説:醸造責任者伊藤啓孝
Domaine Kuheijiの歩み
2006年 フランスでの日本酒啓蒙・販売開始
現地シェフ・ソムリエ・ワイン醸造家達との交流・親交が深まる。彼らは最初に「どうやって日本酒は造るの?」とは聞きません。最初に聞くのは、「お米の事です」
自分で育てているのか?品種は?栽培方法は?土地の特性は?
教科書と米農家さんからの聞きかじりの知識はありました。
しかし、自分で米栽培に携われていない「後ろめたさ」が募るのです。
2010年 後ろめたさの脱を目指し、兵庫県黒田庄にて酒米・山田錦の自家栽培を開始
2011年 自社栽培のみの米で醸した商品「黒田庄に生まれて、」を発売。
2013年 醸造家の化学反応をめざし伊藤啓孝渡仏。フランス語修得の為、語学学校へ。
同時にフランスの米栽培にも着手。南仏カマルグにて品種マノビを栽培。
2014年 ワイナリーでの研修
2015年 研修後、モレ・サン・ドニに醸造所取得
Kuheiji France SARL設立スタートを切る。
2016年 ワイン初醸造開始。
それと同時にマノビを日本に運びフランス産米でのSAKEを商品化
2017年 2,5haの畑取得
2018年 3期目、自社畑以外のキュべも醸造
2019年 2017年産ワイン初出荷
2020年 2017年産ワインを日本で販売開始。
ワインの発売とあわせ、田んぼにフォーカスした品を同時発売。
Kuheijiの特別な日本酒もご一緒に
萬乗醸造は国境を越え、日本酒・白ワイン・赤ワインの3つの醸造酒を同じ哲学の下、皆様にお届け出来る世界で唯一の蔵になります。同じフィロソフィを体感して頂きたく、このワインの販売と同時に、これまで以上に、田んぼにフォーカスした特別な品をご用意いたしました。
私は日本酒屋ですが、皆様のテーブルの上で、最初から最後まで日本酒で通して頂きたいと思っておりません。しかし、日本酒が一番生きるポイントで日本酒を楽しんで頂きたいのです。そして白ワイン、赤ワインへと、移行して頂き、それらがまた一番生きるポイントで楽しんで頂きたいのです。「各々が最も生きるポイントで楽しんで頂きたい!」それは、造り手達の、共通する願望な筈です。そして、それが皆様にとっても、喜びが最大に増すことだとも、考えております。但し、それらの日本酒とワインは、同じ哲学の、同じ血が流れる醸造家の品であって欲しいのです。ですから、弊社はワインを醸したのです。
― 久野九平治本店・テロワール黒田庄町田高・2018 ―
2010年にさかのぼります。
農と醸の垣根を越える為に初めて田圃に入りました。
そして身に染みるのです。田圃1枚1枚の土地の違いを。
毎年毎年の天候の違いを。太陽の尊さを。
同じ地区の中でも更に、細かく土地が違います。それ故、毎年起きるドラマが違います。
黒田庄町の中の田高
初めてお米を育て、初めて田を所有した土地になります。
そんな田から生まれた米から、この品は醸されています。
日本酒のテロワールをお楽しみ下さい。
2018年のドラマ
稲にも花が咲きます。そして受粉し結実して行きます。2018年 花が満開の時に関西の空港が水浸しになった台風がやって来ます。その影響で受粉が上手く行かず、収穫量は
20%ダウンのビンテージでした。お米は花の咲いた後の気温に大きく左右されます。この台風の後に2018年は、気温が下がりました。気温が下がるとお米は柔らかくなります。柔らかいお米は、大きく熟したボリュームの日本酒に、お米がしてくれるのです。
皆さんにとっては、小さなお米ですが、私達には、お米はもの凄く大きく見えています。
そして硬いだけがお米ではありません。ビンテージがお米にも存在するのです。
実は「酒造りは、田んぼから始まっています」
テースティングコメント
香りは、白や黄色の爽やかな果実が熟した時の香と、そこにハーブの多種な表情が加わり非常に豊かです。そして時間の経過と共に果実だけではなく、スパイスのニュアンスも現れ、香り全体を引き締めます。口に含むと鮮烈なUMAMI、仄かな収斂味、そして全体を下支えする酸味とミネラル感が、余韻の長さへ繋がります。味わいの変化は時間の経過と共に多種な表情を見せてくれます。2018年は収穫量が減った分、お米、一粒一粒にエネ
ルギーが凝縮される形となり、それがファーストアタックの鮮烈さに如実に表れています。
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